あなたは「酪農経営者」or「酪農労働者」

酪農組合に所属している一般的な酪農家の経営形態を見てみます。

ウシに給与する飼料は、定期的に巡回して来る飼料メーカーや飼料販売店の営業マンが、飼料タンクや紙袋の残量を確認して、自動的に補充してくれます(他社メーカーに乗り換えられないために)。分娩の関係で使用量が不定期な人工乳などは酪農家自身が注文するときが多いですが。

また、搾った生乳は、バルククーラーに保冷しておけば、酪農組合の集乳車(タンクローリー)が定時的に集乳して乳業メーカーに配送してくれます。

 

乳業メーカーに配送された生乳は、乳業メーカーが季節変動はあるものの、一定価格で購入してくれ、乳業メーカーが生乳を加工し、できあがった牛乳製品は乳業メーカーが販売してくれます。

そのため、酪農家は、ただ生乳を搾ることだけに専念していればいいともいえるのです。

生産したものを自ら販売するという販売努力も必要なく、相場に左右されない一定価格での販売も、一般的な農業からすれば、酪農は特異な業種とも言えるのです。

それによって、ともすると、生乳をただ搾ればいいという惰性に陥り、時代の変化に取り残されてしまう恐れがあります。諺にいう、「井の中の蛙、大海を知らず」とも言えるでしょう。この状態の酪農家を、私は失礼ですが「酪農労働者」と言いたいのです。

現在、販売されている精液は、人工授精所の研究と皆さま酪農家の後代検定への協力によって、ほとんど全ての種雄牛の乳量の遺伝能力はプラスとなっています。(まれに、乳量の遺伝能力がマイナスの種雄牛がいますが、その種雄牛は体型改良にすばらしい力を発揮するショー・タイプの種雄牛です。)つまり、販売されているどの種雄牛の精液を授精しても、生まれてくる娘牛の乳量の潜在的能力は母牛を超えている、と言えるのです。

乳牛の潜在能力の向上を気に掛けずに十年一日のごとく惰性で酪農を続けていれば、遺伝能力が無駄だと思いませんか。

飼養しているメス牛の遺伝能力の向上に合わせて、給与する栄養と飼養管理を変えていかねばならないのです。乳牛は本能で泌乳してしまいますので、泌乳量に合わせた栄養を給与しないと、ホルモンバランスを崩して受胎がうまくいかずに空胎期間が伸びてしまいます。

また、酪農家の皆さんは、時代の趨勢にあわせて乳牛の改良を常に考えていかなければなりません。

私は、現在の乳脂肪率3.5%という取引基準が永久不変とはいえないと思うのです。時代の変化とともに取引基準の変更も考えられます。

例えば、生乳が現在のように脂肪率主体の飲用として使われるのか、あるいは、成分に重きをおいて(ハンバーグ用としてのバター、ピザ用としてのチーズ)使われるかによって、乳脂(無脂固形)率 が 乳脂(乳蛋白質)量 に変わることがあるとも予想されるのです。

何もせずに惰性で経営を続けていた結果、ハッと気が付いた時には、すでに時代から取り残され、廃業せざるを得ない状況に陥ってしまうこともあります。

酪農家の皆さんは自営業ですが、自営業のトップは社長・経営者なのです。事業規模の大小にかかわらず、社長・経営者には事業を継続させ発展させていく責任があるのです。皆さんには、常に感覚を研ぎ澄まし(市場の動きと飼養管理)、牧場を生き残らせ末永き繁栄を目指して、時代の先端をいく「酪農経営者」となっていただきたいのです。

さて、最後に問います、あなたは「酪農経営者」ですか、「酪農労働者」ですか?