ホルスタインの長命連産に影響を与える『後肢側望』

『 後肢側望 』とは、後肢の飛節の角度を指します。

ホルスタインの重い体と乳房を支えるためと、歩様をスムーズに行うためには、後肢の飛節の角度が非常に重要になってきます。

簡単にいいますと、寛から下した垂線が蹄に至るのが最も体重を支えやすく、ベストの状態です。(図1)

寛から下した垂線が蹄の後ろに至る後肢の状態を“ 曲飛 ”といい、蹄の前に至るのを“ 直飛 ”といいます。(図1)

曲飛も直飛も、長年にわたって体重を支えるには厳しく、関節がダメージを受けて歩行が困難となり淘汰の一因になります。

『 後肢側望 』を後肢の飛節の角度と言いましたが、実際の角度でいいますと、寛から下した垂線が蹄に至る適度な角度は約150度で、それよりも10度位少ない約140度前後が曲飛で、10度位多い約160度前後が直飛です。(図1)

なお、『 後肢側望 』の見方として、後肢の飛節の部分の曲がり具合を見る見方は、間違いではありませんが、簡易的な見方です。(図2)

視覚にたよりますと、個人差がでてきてしまいます。

科学的に判断するためには、個人差がでない基準が必要です。

正式には、つなぎ(繋)の上の副蹄が付いている場所と、飛節の中央とを結んだ線が向かう方向を見るのが正しい見方です。(図3)

後肢を揃えて立ったとき、適度な角度であれば線は座骨に向かいますが、曲飛ですと線は体の外に向かい、直飛ですと線は座骨よりも寛の近くに向かいます。(図4)

実際に最適な『 飛節の角度 』は、ウシが自由に歩けるフリーストール牛舎やルーズバーン牛舎と、自由には歩けずに移動の少ないつなぎ牛舎とでは違うと思います。

科学がより進歩すれば、フリーストール牛舎とつなぎ牛舎のウシで、飛節の最適な角度が違って評価されるかも知れませんね。

また、『 飛節の角度 』は、乳房が垂れ下がることとも深い関係があります。もちろん、乳房の垂れ下がる要因は複雑で、中央懸垂靭帯の強さや前乳房の付着の強さなどが影響してきますが、乳房を支える支点(図の緑の矢印)も重要で、乳房を支える支点がずれる曲飛と直飛のウシの乳房は、垂れやすくなります。(図5)

このように、『 後肢側望 』は曲飛(プラス)でも直飛(マイナス)でもない、ゼロが良い状態であることが理解できると思います。

人間の一般的な感覚からすると、右肩上がりの言葉で表されるように、数字的にはプラスが良い感じがしますが、ゼロがよく、プラスもマイナスもよくないとの見方もあるのです。

標準化伝達能力で、プラスよりもゼロがいい部位は、後肢側望 の他にもあります。
それは、乳房の深さ・前・後乳頭の配置・乳頭の長さ・尻の角度 です。

『乳房の深さ』は、浅すぎると(プラス)乳房が小さくなりますし、深すぎると(マイナス)乳房が汚れたり、起立時に乳頭を損傷する恐れがでてきます。
『前・後乳頭の配置』は、内付き(プラス)でも外付き(マイナス)でも、搾乳器の装着が面倒になります。
『乳頭の長さ』は、短い(マイナス)よりも長い(プラス))ほうがいいですが、長すぎるとウシが起立するとき、乳頭を損傷する危険がありますし、短すぎると搾乳器の装着が困難でありますし、搾乳器がうまく装着されずに空気を吸い込んでしまうこともあります。

『尻の角度』は、ハイピン(マイナス)は難産の傾向となります。斜尻(プラス)は、あまり歩かないウシにとって見た目があまりよくない程度で、生理的にはまったく問題がありません。