ショーで自分のウシを最もアピールする場面はどこ ?

皆さんが大好きで熱意を持って参加するホルスタイン共進会やブラック・アンド・ホワイト・ショー(以後、ショーと称します)で繰り広げられる場面を分類してみますと、

① ショー・リングへの入場を待つ待機場。

② 出品番号順によるショー・リングへの入場。

③ 出品牛全頭が揃ってのリング周回。

④ 個体審査。

⑤ 一次選抜(ファースト・ピック)。

⑥ 二次選抜(セカンド・ピック)の審査。

⑦ 二次選抜(セカンド・ピック)。

⑧ 最終選抜(ファイナル・ピック)の審査。

⑨ 最終選抜(ファイナル・ピック)。

⑩ 決定順位での整列。

⑪ 講評

⑫ 退場

に分類されると思います。

さて、「皆さんがショー・リングでウシをリードする場合、どの場面で一番緊張しますか? もちろん、クラスの審査が終わるまで緊張しているでしょうが、その中でも最も緊張する場面はどこですか?」と質問したら、皆さんは、どう答えますか?

多くの人が、特に若い人の多くが「審査員が自分のウシを審査(いわゆる個体審査、上記の④)するとき。」と答えると思います。

話がそれますが、皆さんが女性であれ男性であれ、異性の集団に入ったとき、異性の全員の顔を一度見た瞬間に、その中で自分の気に入った人が目に入りませんか。そしてそのあと、その人が気になって、何気なくチラチラとその人を見ることはありませんか。その時、その人のそばまで行ってジックリとその人を見たり、出身地や趣味を聞いているわけでもないのに。自分の好みに合うものや、何かアピール性のあるものは一瞬にして目に入り気になるのです。

これが “一目惚れ” というやつです。

話を元に戻します。ショーで審査員がウシを見るのも同じであると考えたらどうなりますか。

審査員の行動を見てみましょう。

出品牛が入場してくるとき、ウシを観察している審査員もいますし、事務局の場所で一服したりコーヒーを飲んだりしている審査員もいます。しかし、どの審査員も、出品牛の全頭が揃うと、リングの中央に行き、必ず、ゆっくりと身体を回して出品牛の全頭を1・2回見渡します。審査のスタートと同時に個体審査に入る審査員は絶対にいません。出品牛全頭を見渡すこの時が“一目惚れ”の瞬間なのです(上記の③)。

この瞬間に、すばらしい乳用性や成長度合いで審査員の目を引きつけ、脳裏に焼き付くウシがいるはずです。そのウシが審査員好みや、アピール度のあるウシとして上位入賞候補牛となる、と推察ことに無理があるでしょうか。

ですから、ウシをリードする皆さんは、審査員が自分のウシを最初に見る瞬間に、全力でウシを見せる 努力をしなければいけないのです。

「それでは、個体審査は何なんだ。」と思われるでしょう。個体審査は、リード・パーソン[ コラム「ホルスタイン共進会(BWショー)でウシをリードする人の名称について」 参照 ] と観客に対するジェスチャーだ、と言ったら怒られるでしょうが、個体審にも大切な意味があります。審査員はリングの内側にいて、右回りに移動する出品牛の右側面を見ています。一方、リングの外側にある観客席にいる観客には左側面がよく観察できます。ウシの体型は、必ずしも左右対称ではありません。特に、乳房の形状や飛節の状態は、左右で違うことが多々あります。ですから、審査員がウシの左側面の欠陥を見落とすことは、審査員としての致命傷にかかわるのです。そのためにも、個体審査は意味があるのです。

また、審査員が、あるウシの個体審査を終わり、リングの中央に戻ったとき、チラチラと他のウシを見るときがありますよね。皆さんが異性を見るときと同じで、その視線の先が、一目惚れしたウシなのです。特に、まだ個体審査をしていないウシに審査員が視線を移しているときは、そのウシのリード・パーソンは、審査員が気になっている上位入賞候補牛として、それこそ真剣にウシをリードしなければいけません。

「ウシを真剣にリードしろ」とは、リード・パーソンは胃に穴があくほど緊張してリードしなさい、と言っているのではありません。常にウシの頭を一定の位置に保ってリードしたり、ウシが姿勢を崩したらすぐに姿勢を修正するように、ウシの見苦しい姿を審査員に見せないようにリードすることを言っているのです。

「それが審査か。」、と言う人もいるでしょうが、一頭だけの体格審査と違い、出品牛間での比較審査 では、これが現実だと納得するしかありません。

また、フィギュアスケート・水泳の飛び込みや体操など、採点競技では複数の審査員が採点し、最大と最小の点数を除外して、残りの平均点で評価するのが一般的ですが、ホルスタイン・ショーの審査員は一人なのです。

体格審査も審査員が一人ですが、体格審査は、身体の各部位ごとに細かく採点して、その合計点で評価されますので、審査員による評価の差は少なくなります。

しかし、ショーでの審査はウシの各部位ではなく身体全体としての審査ですから、審査員が一人ということは、審査員個人が好きなタイプ、例えば、体高があるとか、あるいは、審査員個人が重視する部位、例えば、乳器とか肢蹄とかに、当然のこと眼がいきます。その結果、体格審査でベリーグッドのウシがエクセレントのウシに勝つことがあるのです。だからショーは面白い、とも言えるのです。体格審査とショーの審査が同じであるならば、ショーなどやる必要がないのです。最初から結果がわかっているのですから。

そのため、同じ出品牛を審査しても、審査員によって多少順位が変わってくる可能性があります。よくある事例では、県での順位と、その上位のショーでの順位が変わることがあります。もちろん、時間差によるウシの体調の変化もありますが。しかし、良い体型のウシが評価されますので、審査員によって多少の順位の変更はあっても、大きな順位の変更はあり得ません。

以上のことから、ショーでは、審査員がウシを最初に見る瞬間に、いかに審査員に印象づけることが大切なことであるかが、理解できると思います。

逆に言うと、審査員に悪い印象を持たせてはいけないのです。つまり、リード・パーソンの態度によっては、審査員に不快な印象を与えてしまうことがあり、ウシが良くとも順位を落とされるかも知れないのです。ショー・リング内でのすべての権限は審査員一人にあるのです。リード・パーソンは、リードの基本に従いマナーを守って、良い印象を審査員に与える行動をしなければいけません。せっかく育て、毛刈りまでしたウシのためにも。

皆さんが観客としてショーを見ているとき、見た瞬間に目を引き付けるウシがいると思います。そして、そのウシはたいてい上位に入賞しませんか。そういうウシが、ショーでのアピール度のあるウシなのです。

また、皆さんは観客席から出品牛を見ていて「あれが1位で、あれが2位だ。」と友達と話しをしていますよね。その時、皆さんは審査員と違って、出品牛個々の細かい点など何も見ずに、全体を見ただけで判断していますし、その判断がそれほど違ってはいないのです。

加えて、「あのリード・パーソンの態度は何だ。」と思うときもありますよね。皆さんは、そういうリードをしてはいけません。

最後にもう一度言います。

リード・パーソンとしては、審査員が自分のウシを最初に見る瞬間に、全力を傾けてウシをアピールする ことが、最も大切なのです