牛のクローン ③ ホルスタインのクローン・オス編

ホルスタインのオスのクローンについて考えてみましょう。

能力が非常に高い種雄牛が出現した場合、その種雄牛のクローンを作ろう、と誰もが思うことでしょう。
しかし、そのクローンのオスにどの位の価値があるかが問題となります。

クローン牛と言うと、すぐにでも生体ができると、誤解している人がかなりいます。
しかし、「クローン①クローンとは」、で述べたとおり、クローンも受精卵移植と同じで、借り腹のメスの腹のなかで約10ヶ月の成長期間を経たあと誕生し、約14ヶ月の育成期間を経て大人になります。つまり、大人になるまで最低でも24ヶ月の歳月が必要なのです。

つまり、クローンのオスから採精可能になるのは、クローンの受精卵を作製してから少なくとも24ヶ月、2年後のこととなります。

人工授精所業界は熾烈な競争が続いているため、種雄牛の能力は年々高まっています。
以前は、メスとオスの能力を分析し、交配の妙に秀でた才能を持つサイアー・アナリストとがオス牛を作出していましたが、今では、メスとオスのDNAの遺伝子情報まで駆使して交配を決定しています。このようにして、能力が年々高まっている種雄牛ですが、クローンのオス牛の能力は、細胞を採取した種雄牛の能力を引き継ぐだけです。

図をもって説明します。
例えば、図1のように、横軸に年度を、縦軸に種雄牛の乳量の潜在能力をとります。
2017年に初めて発表された種雄牛候補の乳量の平均値(Average)を17-Aとし、最も高い(High)能力を17-Hとし、最も低い(Low)能力を17-Lとします。

以後、年々種雄牛の潜在能力は伸びていきますので、図2のようになります。

2017年の発表で最も成績のよかった17-Hの種雄牛のクローンの受精卵を作製し、借腹牛(レシピエント)に移植します。そのクローン牛から採精できるのは、先に述べたとおり、どんなに早くとも2年後となりますから、2019年になります。

一方、2019年に初めて発表される種雄牛候補の乳量の成績は図3の2019の部分となります(青線)。
クローンの細胞を採取した種雄牛の能力17-Hのレベルを横に伸ばすと(赤い破線)、2019年の平均値(19-A)よりも上であっても、多分、2019年の最高である19-Hには及ばず、どうしても赤矢印の差がでてしまいます。
これから理解できるように、クローンは増殖であって改良ではなく、改良がいかに素晴らしいかがわかると思います。

このことからしても、クローンの種雄牛は、さほど魅力がないとも言えるのです。
そのため、ウシのクローンが作出されてから、かなりの年月がたちますが、実際にクローンの種雄牛が出てきていないことが納得できると思われます。