ショーでの「良いウシ」とは ?

日本では、春に、主にホルスタイン改良同志会が主催する「ブラックアンドホワイト・ショー」が、秋に、主に行政が主催する「ホルスタイン共進会」が開催されています。(以後、これらを総称して、ショーと記載していきます。)

ショーへの出品牛は、未経産牛と経産牛に分けられ、未経産牛では月齢別に、経産牛では年齢ごとに分けられて審査され、各部ごとに順位付けされます。そして最後に、各部の1位と2位の中から、未経産牛の部と、経産牛の部ではインターミディエイト(ある場合は)とシニアの1位と2位(リザーブあるいは準チャンピオンを選出する場合)が決定され、最後に、当日のショーでの真の1位と2位(リザーブあるいは準チャンピオンを選出する場合)が選出され、グランド・チャンピオンとリザーブ・チャンピオンとして(あるいは、名誉賞と準名誉賞。または、最高位賞と準最高位賞など。)表彰されます。

それでは、“ショーでの「良いウシ」” とは、どういうウシを言うのでしょうか。

私は、「良いウシ」とは、人によって、職業によって違うと思うのです。

冗談ですが、例えば、

飼料メーカーにとっては、乳量に関係なく、たくさんの飼料を摂取するウシが「良いウシ」かも知れません。

たくさんのエサが売れるからです。

授精所にとっては、自社の種雄牛から生まれた娘ウシが「良いウシ」かも知れません。

ショーに強い種雄牛として精液が売れるでしょうから。

授精師にとっては、1回の人工授精で授精するウシが「良いウシ」かも知れません。

授精が3回もとなると、腕が悪いと言われるかも知れませんので。

削蹄師にとっては、柔らかくよく伸びる蹄をもったウシが「良いウシ」かも知れません。

削蹄が楽でしょうし、削蹄の回数も増えるでしょうから。

獣医師にとっては、軽い病気を繰り返すウシが「良いウシ」かも知れません。

軽い病気ならば、処置も楽でしょうし、その都度、診察料がもらえるからです。

これは、あくまで冗談ですが、各個人が本心を言えば、人によって職業によって、「良いウシ」の判断は違うのではないでしょうか。

それでは、ホルスタインを出品する酪農家にとって「良いウシ」とは?

それは、長い期間にわたってたくさんの乳を泌乳するのが「良いウシ」のはずです

そして、酪農家にとって「良いウシ」を選ぶのが、ショーの本当の意義だと思うのです。

それでは、長い期間にわたってたくさんの乳を泌乳するウシとは、どういうウシでしょうか。

私が思うに、

第一に、乳を泌乳する要因である 乳用性 を持っていること。

第二に、どんなに初産乳量が多くても一産で終わってしまっては困るのです。長命連産によって生涯乳量を増やしたいのです。そのために、正確な骨格 を持っていてほしいのです。

加えて人間は欲張りですから、身体が大きければもっと泌乳するだろうと考え、第三に、大きさ だと思うのです。

しかし、最近の審査を見ていると、出品牛の評価が、私の思いとは逆にいっているのでは、と感じるのです。

つまり、第一に大きさ、第二に骨格、第三に乳用性で評価されていると。

ホルスタイン・ショーはホルスタイン・ショーであって、ウシの育成技術を競う育成共進会ではないのです。

では何故、このようになっているのでしょうか?

それは、日本で審査する人は、北米のショーをよく見学に行きます。

北米のショーに出品されるウシは大きいです。

その大きさに圧倒された日本人の審査員は、大きいことはいいことだ、と誤解して帰国するからではないでしょうか。その結果、大きさを優先して審査してしまう。

私は、在職中アルタ・ジェネティクス社の精液輸入代理店業務をやっていたため、北米の大きなショーで、アルタ社の社員とともに繋留場に入り、多数の出品牛を見て触ってきましたが、北米のウシは、乳用性があって大きいのです。

それでは、乳用性とはどこで判断するかです。

乳用性は、首の細さと長さ、尻尾の細さと長さ、肋の皮膚の柔らかさと薄さ、被毛の細さと密度、乳房の皮膚の柔らかさと薄さ、乳房の柔らかさ(テクスチャー) などで一般的に判断します。

経産牛になると、首は太くなってきますので、経産牛の乳用性は、主に肋の皮膚の柔らかさと薄さ、乳房の皮膚の柔らかさと薄さ、乳房の柔らかさ(テクスチャー) で判断します。

その証(あかし)に、北米の審査員は、出品牛の乳用性を確認するため、必ず出品牛の肋や乳房の皮膚をつまみ、皮膚の薄さと柔らかさを確認します。

日本の審査員で、出品牛の皮膚を触る審査員がいますか?

でも、審査講評では、乳用性の言葉がよく使われる。矛盾ですよね。もっとも、すばらしい審査員は、見ただけで、皮膚の薄さ などが分かるのかも知れませんが。

皆さんは、どう思いますか?

乳価の安い北米の酪農家は、体格がどんなに大きくとも、泌乳量の少ないホルスタインでは酪農経営が成り立たないのです。簡単に言うと、泌乳量の少ないホルスタインはホルスタインではないのです。

皆さんは、ホルスタインの大きさよりも泌乳量の要因となる乳用性を追求してください。

そして、毎日厳しい作業の続く酪農において、ショーは楽しみではありますが、ショーでの上位入賞よりも、まずは酪農経営の安定を目指してください。