乾乳期の管理について一考

乳牛の乾乳期の管理について考えてみましょう。

乾乳期とは、字のとおり泌乳していた乳牛が、次の出産のために、泌乳をやめて(乾乳)出産の準備をする期間で、通常、分娩2ケ月前から始まります。

 

私が全国のたくさんの牧場を訪問して感じたことは、失礼ながら一般的に、乾乳期の乳牛は乾乳期に必要な十分な管理がされていないのでは、と言うことです。

乾乳期のウシには、履きよせとか、泌乳中の乳牛の残りエサをやっている牧場がなんと多いことか。

稼ぎの源となる牛乳をだしているウシには目を向けるが、牛乳をだしていない育成牛や乾乳牛には、あまり目を向けない酪農家が多々見受けられます。

 

乾乳期のウシを人間の女性に例えて考えてみましょう。

皆さんのそばにいる妊娠中の女性を思い浮かべてください。

妊娠末期のお腹を大きくした妊婦は、母親とかに、お腹の子供に影響するからあまり激しく動くな、とか、お腹の中の子供のために栄養を取って、などと至れり尽くせりにチヤホヤされています。しかし、出産した後は、妊娠中とは様変わりで、ぼやぼやしていないで動きなさい、働きなさいと言われます。

まったくウシとは逆ですよね。

 

私は、乾乳期のウシも同じだと思うのです。

 

乾乳期のウシは、泌乳中に酷使した絨毛の回復と、胎児の成長に栄養が必要なのです。特に、胎児は妊娠後半に急激に成長しますので(図1)、母体はたくさんの栄養が必要なのです。

その大切な乾乳期に、泌乳牛の残りエサとは。

乳牛についてはいろいろ研究されており、時期々々における適正な肥満具合も研究されてボディーコンディション・スコアとして示されております(図2)。

図2からわかるとおり、乾乳時期は泌乳せずに胎児のために栄養を摂取することから、その影響で太ってきますが、ボディーコンディション・スコアに幅があるとおり、太り過ぎ(オーバーコンディション と言います)になってはいけないのです。つまり、栄養を与えろと言っても、与え過ぎてはいけないのです。オーバーコンディションになると、分娩後に繁殖障害発生の原因になると言われています。

もちろん、栄養不足でボディーコンディション・スコアが低すぎるのも良いことではなく、分娩後の乳量の低下が早くなると言われています。

 

また、泌乳量の変化も研究されており、泌乳曲線として示されています(図3)。

図3からわかるように、分娩後約60日は泌乳量が増えていきますが、その後、徐々に泌乳量が減っていきます。

分娩後、泌乳量が増えていくのは、成長の早い初生仔牛を育てるために必要な泌乳をするための母体としての生理的な反応です(実際は、その乳を人間が横取りしてしまいますが)。しかし、その泌乳に見合った栄養をエサとして外部からは量的に摂取することができない(食べられな)ため、体内に貯えた栄養を使って泌乳するのです。

 

泌乳量と体重の変化を重ね合わせたのが図4です。

分娩後の泌乳量の増加に伴って、体重が落ちていくことがはっきりと分かります。

そのためにも、乾乳期の栄養補給が必要なのです。

 

乾乳期の管理がいかに大切かが理解いただけましたか。

 

乾乳期のウシを、泌乳中のウシと同等に目を配って管理すれば、ウシは産乳量をもって恩返ししてくれるでしょう。

 

(高石 優 氏 と合作)