数字で見る全日本ホルスタイン共進会の入賞牛

ホルスタイン・ショー(ホルスタイン共進会とブラック・アンド・ホワイト・ショー)の審査結果を数字で分析することは極めて難しいです。難しいというより、ほぼ不可能でしょう。
その理由はたくさんあります。
1.ショーの審査基準がないこと。
2.数字として、牛体が測定されないこと。
3.審査員が一人であること。

1.に関しては、ホルスタインの体型審査基準には、経産牛について日本ホルスタイン登録協会が作成している基準があります。未経産牛の体型審査基準はありません。ショーの審査ではその基準を参考にはしますが、あくまでも体型審査の基準であって、ショーの審査基準ではありません。
2.に関しては、ショーで牛体測定が行われるのは、全日本ホルスタイン共進会の出品牛だけで、他のショーでは全く行われておりません。
3.に関しては、ショーの審査は一人で行うため、他の審査員との見方が違うということはありませんので、見方を統一するための審査基準がなくとも審査が可能なのです。

しかしながら、ショーの審査結果を数字でつかみたい、と思う人は私だけでなく他に多々いることと推察します。

そこで、2020年3月に、日本ホルスタイン登録協会からホルスタインの推奨発育値の新しい数値が発表されましたので、2020年に開催される予定でありました第15回全日本ホルスタイン共進会の審査結果を踏まえてまとめようと思っていたのですが、残念ながら中止となりましたので、第12・14回の全日本ホルスタイン共進会(第13回は中止)の結果を取りまとめました。

全日本ホルスタイン共進会の牛体測定結果(測尺)を用いて、数字と審査結果の関連性を傾向だけでもつかんでみようと思います。

全日本ホルスタイン共進会(以後、全共と表記します)での測尺は、体高・尻長・腰角幅・胸囲の4部位が測定されますが、その中で、観客として見ていて比較しやすい体高を取り上げました。

グラフ1は、日本ホルスタイン登録協会が1995年に発表したホルスタインの標準発育値をグラフ化したものです。

表1~4は、第12・14回全共の各クラスの出品牛の体高の高い順の上位5頭(1が一番体高のある牛です)が、クラス審査でどの順位にランクされたかを示した表です。

まず未経産牛の部を見てみます。

表1は、第12回栃木全共の未経産牛の部の結果です。
1部では体高の上位5頭がクラス順位の1位から5位まで全てを占め、2・3・5部では体高の上位5頭の内4頭が5位までに入賞しています。また、各部とも、体高の上位5頭のどれかがクラスの1位を獲得しています。

表2は第14回北海道全共の未経産牛の部の結果です。
2部では体高の上位5頭がクラス順位の1位から5位まで全てを占め、1部では体高の上位5頭の内4頭が5位までに入賞しています。また、各部とも、体高の上位5頭のいずれかがクラス1位を獲得しています。

次に、経産牛の部を見ます。

第3表は第12回栃木全共の経産牛の部の結果です。
7部門の内3部門で体高の上位5頭のいずれかがクラス1位を獲得しています。

第4表は第14回北海道全共の経産牛の部の結果です。
7・8・11・14部では体高の上位5頭の内3頭が5位までに入賞しています。また、9部門の内5部門で体高の上位5頭の内の1頭がクラス1位を獲得しています。

これらの結果から体高があることがショーにおいては有利であることがわかります。

では何故、ショーでは体高がることが有利なのでしょうか。
ショーでは、審査員に対するアピールが必要です。
各クラスの審査で、出品牛が年齢の若い順にショー・リングに入場してくるときに、審査員はリングの中央で入場してくる出品牛を見ています。出品牛の入場時に、喉を潤すために事務局の所でコーヒーでも飲んでいた審査員も、全頭が入場し終わるとリングの中央に戻り体を反時計回りに2回転ほどさせて番号順に並んだ出品牛全頭を必ず見ます。全共だけでなく、すべてのショーにおいても同じです。最初に出品牛の全頭を見ないで、すぐに個体審査に入る審査員は(審査員としての初心者以外)絶対にいません。この瞬間に審査員にとってインパクトのある体高のある牛が目に入り記憶に残ります。このインパクトがその後の審査に影響するのでしょう。
これは個体審査に入った審査員が、まだ個体審査をしていない牛をチラチラと見ることからもわかります。個体審査が終わっていないのに審査員がチラチラ見る牛が、出品牛を最初に見たときにインパクトがあって印象に残った牛です。

そのため、特に体型審査基準のない未経産牛では、最初のインパクトが最後まで審査に影響するものと推察されます。

一方、体型審査基準があり、乳器を付けている経産牛では、審査員は体型審査基準で総得点の40%の点数を占める乳器に気を取られるため、最初に受けた体高のインパクトが、未経産牛よりも薄くなるのかも知れません。
もちろん、経産牛の審査においては、体型審査基準がすべてではありません。審査員個人の理想とするホルスタインの容姿が主体となります。もし、体型審査基準がショーでの審査のすべてであるならば、ショーなどやる必要がないのです。全共に出品される牛は体型審査を受けているため、最初から順位が決まってしまっているのですから。

また、ショーの審査では、小さくまとまった牛よりも、少しの欠点があってもその欠点をカバーするにあまりあるアピール度の高い部位を持った牛が有利となります。
このことによって、ベストアダーとして、体型審査基準で40%の評価を受けるすばらしい乳器を持った牛もクラス・チャンピオンになれないことが多々あるのです。

グラフ2・3は、グラフ1に、第12回栃木全共と第14回北海道全共の各部の出品牛の平均体高(緑色の四角)と1位の牛の体高(黄色の丸)とをプロットしたものです。

全共の出品牛は、各都道府県の代表牛ですから、その平均値が標準発育値よりもかなり高いということは、各都道府県での審査もアピール度の高い体高のある牛が上位にランクされる審査が行われていることの表れだと推察されます。

第14回北海道全共の60ヶ月で、クラス1位の牛の体高が平均値よりも低いですが、私も不思議に思い何回も数字の確認をしましたので間違いはありません。
たぶん、後乳房の幅があって付着が高い等、体高をしのぐすばらしい乳器を持っていた牛と思われます。

皆さんも、ショーでの入賞を目指すならば、体高のある牛を出品されることを勧めます。特に、未経産牛においては。

ただ心配なことは、体高のある未経産牛が成長し分娩したあとどのような体型になるかです。
その理由は、最近の審査を分析していると、未経産牛のチャンピオンがなかなか経産牛のチャンピオンになれない。あるいは、経産牛として出品もされない傾向が以前よりも多くなっている感じがするからです。もちろん、期待するほどの乳器がつかなかったという理由もあるのでしょうが。
このことに関しては、酪農界全体で再考する必要があると思います。